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著者の近作「ワインと外交」も非常に面白かったが、あちらはフランス以外の国の外交事情や、その時のワインや食事に関するエピソードもそこそこあった
今回はタイトル通り、エリゼ宮におけるの食とその周辺にポイントが絞られていて、いわゆるフランスのエスプリをたーんと味わうことが出来たような気がした
以前、フランスに遊びに行った際にフランスの知人に聞いたところでは、ごく普通の人達が食べているものは、それ程ゴージャズでもソースたっぷりでもない−でも量は大量−ということで、結構ビックリしたものだった
とはいえ、本書を見る限りでは、やはり、フランス=食であり、何はともあれ、その食文化の高さと豊かさこそがフランスの矜持そのものなんだろうと思われた
他国に迎合しないとか、自国の言葉を守ると言ったような、そういう部分とは別の意味で、フランスは独自のアイデンティティを食文化に重ねているのだろう
ある意味羨ましい姿である
日本の料理も充分世界に誇れるものだと思っているが、生が多いことや、嗜好的にも衛生的にも、危険度が高いことから、残念ながら饗応には向かないらしいのが、非常に残念である
本書では、他にも大統領と首相の役割分担の差であるとか、エリゼ宮の予算の使い方とか、フランスの食に象徴される饗応外交の姿勢などについて、とても興味深く読むことが出来た
古く多種多様な人種や国々といくつも隣接し、戦争の勝敗で、常に勢力地図が変動していたヨーロッパにあって、外交はまさに命懸けであったろう
そのかけひきの重要な部分を現代においても饗応外交がかなりのウエイトでまかなっているということは、やはり凄いことなんだと思われる
とはいえ、身分の上下や政治的かけひき以外にも、政治家当人の個人的なつきあい(+思惑)が重要なポイントだったということなので、どんなに外側を飾ってはみても、やはり饗応のキモは「人間のつきあい」なんだなー、とも思った
なお、新大統領のサルコジ氏は下戸らしいし、夫人はあんな方(失礼)なので、エリゼ宮の饗応が今後どう変わるのかが、ちょっと気になるところではある

ここからは余談

本書は既に絶版と言うことで、古本屋を探しまくって購入した
目出度く文庫版を適度な価格で手に入れられたのがラッキーだった
ちなみにアマゾンでは1400〜10000円前後と随分値段に開きがあったようだが、文庫に1万円とは、かなり凄い値付けと思われる(その後ずっと売れないままである)

日本人が日本文化を尊重したり、その中に含まれる歴史や精神などの大事な流れを、変化を許容しながら今後も大切に守ってゆくということは、日本から外へ向けて何かを発信する上では、プラスにはなってもマイナスにはならないのではなかろうか
日本人は自国の文化をもっと誇りし、大切に後代に伝える努力をするべきではないか
−本書を読みながらそんなことをつらつらと考えたりもした